ルル部ノート

LOLに登場するルルを愛して止まないルル部のブログです。

ジンクスのバイオ・ストーリー(2021.11)

ジンクス
暴走パンクガール
大抵の人にとって、ジンクスはありとあらゆる危険な武器を振り回す狂人でしかないが、彼女を比較的無害なゾウン出身の少女──周囲から浮いてしまう大胆ないたずらっ子として記憶している者もいる。しかし、どうしてそんな無邪気な子供が凶悪な破壊行為で名を馳せる要注意人物になってしまったのか、その理由を知る者は誰もいない。ともかくジンクスは彗星のごとくピルトーヴァーに現れ、カオスを巻き起こす彼女のユニークな才能は瞬く間に語り草となった。

ジンクスは当初、ピルトーヴァー市民…特に裕福な商人一族と繋がりがある者に対して匿名の“イタズラ”をすることで、その悪名を轟かせていった。それらのイタズラはそこそこ迷惑なものから法に触れるほど危険なものまで多岐に渡り、「進歩の日」には、メイ伯爵の動物園から珍しい動物たちを解き放って市内の通りを封鎖してみせた。街の象徴であるいくつもの橋を、可愛らしい見た目に反して破壊的なパックンチョッパーで埋め尽くしたときには、何週間もの間他国との貿易が中断された。街中のありとあらゆる標識を、はた迷惑な場所に移動したこともあった。

この正体不明のトラブルメーカーが狙う標的もその動機も全くの無秩序に思えたが、しかし彼女の行動は毎回確実に規則正しい街の営みを中断させた。

当然ながら、街の監視官たちは彼女が起こした犯罪を下層都市のケミパンクギャングの仕業だと考えた。自分のサイコーな悪だくみを他人の手柄にされたことが我慢ならなかったジンクスは、今後は必ず人目につくように暴れてやろうと心に誓った。こうして、ケミテック爆薬にサメ型ロケットランチャー、リピーターガンを担いだ青い髪のゾウンの少女の噂はすぐに広まった。しかし、当局はそうした通報は馬鹿げているとして、真剣に取り合うことはなかった。そもそも、たかだかストリートのギャング風情がどうやってそんな強力な兵器を手に入れられるというのだ?

ジンクスの大胆不敵な犯行はとどまるところを知らず、犯人を捕まえようとする監視官たちの試みはことごとく失敗した。新たな「用心棒」としてヴァイが犯罪を取り締まる市警に合流すると、彼女は破壊行為の現場に、ヴァイに向けた派手な落書きや挑発的なメッセージを残すようになった。

ジンクスの評判は広まり、彼女が横柄な「ピル公ども」に痛い目を見せてくれるヒーローなのか、はたまたピルトーヴァーとの緊張をさらに高めてしまう危険な狂人なのか、ゾウンの人々の意見は真っ二つに割れた。

何か月にもわたって続いた非道な破壊行為の後で、ついにジンクスは自身最大の計画について明らかにした。彼女はトレードマークであるショッキングピンクの塗料を使って、ピルトーヴァーで最も厳重に警備された金庫室である「黄道の大金庫」の壁に、ピルトーヴァーの用心棒ヴァイのかなり辛口な風刺画と、詳細な犯行予告を描いたのである。

犯行予定日までの間、ピルトーヴァーとゾウンには奇妙な期待感が漂っていた。多くの者は、ジンクスにはほぼ確実に捕まるというリスクを冒してまで姿を現す度胸はない、と考えていた。

予告された日がやってくると、ヴァイとケイトリン保安官、そして監視官たちが金庫室の周囲にジンクス用の罠を仕掛けた。しかしジンクスは数日前に収められた、硬貨を入れる特大の箱に身を潜め、すでに金庫内に侵入していたのだ。金庫室の内側から大きな爆音が聞こえ、ヴァイはまたもや自分たち監視官が一杯食わされたことを悟った。彼女が中へ突入すると、黄道の大金庫はすでに破壊されてもうもうと煙が立ち込め、陽気な問題児ジンクスの姿はどこにも見当たらなかった。

ジンクスは今でも捕まっておらず、相変わらずピルトーヴァーの悩みの種である。この犯行に触発され、ゾウンのケミパンクの中から多くの模倣犯が現れ、無能な監視官を皮肉る無数の風刺劇が上演されたりもした。しまいには、二つの都市に共通する新しい俗語も生み出された──さすがに用心棒ヴァイに面と向かって“プリティーピンクちゃん”と呼ぶ度胸のある者はいなかったが。

ジンクスの最終目的、そして明らかにヴァイに固執している理由は謎のままだが、一つだけ確かなことがある。ジンクスの犯行はこれからも続き、ますます大胆なものになっていくだろう、ということだ。

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ウェディング・クラッシャー
ジンクスはペチコートが大嫌いだった。

それに、コルセットもだ。だが盗んだドレスの内側と、そのスカートの中の空間に収めているモノのことを考え、ニヤリとした。彼女の長い三つ編みは、ピルトーヴァーの最新ファッションである、バカみたいな羽飾りのついた帽子の下に隠されていた。ジンクスは結婚式の列席者の間を縫ってしゃなりしゃなりと歩きながら、笑顔を張り付けたまま、周囲の死んだ目をした連中の顔目がけて金切り声を叩きつけないようにと気を付けていた。そいつら一人一人の両肩をつかんで揺さぶり、目を覚まさせてやりたいという衝動を抑え込むには、ちょっとした努力が必要だった。

元々ジンクスがここに来たのは、サンドヴィク伯爵のお屋敷の屋上にある天文台をお空に吹っ飛ばすためだったのだが、いざ来てみるとそこはちょうど結婚式の真っ最中…見逃すには勿体なさすぎる、大騒動を巻き起こすには絶好の機会だった。伯爵は、娘のためのパーティーを一大スペクタクルにするのに一切の費用を惜しまなかった。ここにはピルトーヴァーのおハイソなセレブたちが一堂に会していた――主要な財閥の長たちに、花形のヘクステック熟練工、そして太っちょのニコデムスまでも、どうにか招待状を手に入れることに成功したらしい。儀式用の制服を着込んで胸をそびやかせた監視長官は、まるでたっぷりと詰め物を突めこまれたポロみたいで、その煌々と光る両目は広大なるビュッフェテーブルをねっとりと物色していた。小楽団の奏でる音楽が列席者の間を通り過ぎ、そのゆっくりもったりした調べに、ジンクスはあくびを噛み殺した。足を踏み鳴らし、気持ち悪くなるまでぐるぐる回転しながら聞く、ゾウン流の音楽の方が彼女の性には合っていた。

回転するゾエトロープと奇妙な角度のレンズが組み込まれたヘクスルーメンがフロアに投射する、立体映像のダンサーたちがつま先でくるくると回るさまに、生まれてこの方一度も飢えや苦痛や喪失を味わったことのない子供たちがはしゃいで歓声を上げている。パントマイマーや手品師たちは客のグループの間を渡り歩き、指先の妙技を披露して大人のゲストたちを楽しませていた。イマイチだね、とジンクスは思った。ここにいる芸人たちなど、国境市場をうろつく孤児の盗人たちの腕前を目にすれば、身一つで逃げ出すことになるだろう――文字通り。

樫材の羽目板と幾何学模様の銅細工を施された壁には、ピルトーヴァーのお偉方たちの絵が並んでいた。肖像画の男女は、人々を傲慢な軽蔑のまなざしで見下ろしていた。その前を通り過ぎながらジンクスは一人一人に向かって舌を突き出し、彼らが舌打ちをして顔を背けるのを見てニヤリと笑った。色ガラスのはまった窓からモザイク模様の床に差し込むカラフルな正方形の光の上を彼女は陽気にスキップで辿り、ゾウンの百の家族の一か月分にもあたる大量の食事が積み上げられたテーブルに向かった。

お仕着せを着て、何か金色でシュワシュワした飲み物が入ったフルートグラスを乗せた銀のトレイを持ったウェイターが、ジンクスのそばを通りかかった。彼女は両手に一つずつグラスを取ると、ニヤリと笑って勢いよく回転した。グラスを飛び出した泡が近くにいた招待客たちのドレスやフロックコートの背中に染みを作り、ジンクスはクスクス笑った。

「乾杯」彼女はそう言って、両方のグラスの残りを一気に飲み干した。

ぎこちなく前かがみになり、向かってくるダンサーたちのちょうど通り道と重なるよう、二つのグラスをモザイクの床に置くと、即興で作った「ヴァイはウスノロバカマヌケ」の歌の出だしをゲップで奏でた。おハイソな貴婦人たちがジンクスの下品さをあざ笑うと、ジンクスは口許を手で覆い、目を見開いて恥じ入るようなフリをした。「ごめんあそばせ、今のうっかり、わざとやったの!」

彼女はそのままスキップで進み、別のウェイターの皿から奇妙なサカナっぽい何かの料理をひっつかんだ。それを空中に投げ上げて、少なくとも一つは口でキャッチした。いくつかは「上げ底」の胸の谷間に入り込み、彼女はそれを、ヘドロの中から光る何かを見つけ出した汚水浚いのような喜びでつまみ上げた。

「逃げられると思ったの、おサカナちゃんたち!」そう言って、一かけらずつに向かって指を振った。「ざーんねんでした、っと」

ジンクスはそれらを口に詰め込んでから、ドレスの乱れを直した。こんなに胸元が膨らんでいるのは初めてだったし、そこに詰め込んだもののことを考えて笑い出しそうになるのを飲み込んだ。だが急に首の後ろの毛が逆立ち、視線を上げると、その先には広間の端から自分を見つめている男がいた。堅苦しい感じで、ある種ハンサム。フォーマルな上等の衣服に身を包んでいたが、まるで首から「監視官です」と書かれた看板を下げているかのように、あからさまだった。ジンクスはきびすを返し、広間の招待客の集団の奥に紛れ込んだ。

ビュッフェテーブルにたどり着くと、そびえ立つウェディングケーキの雄姿に驚嘆の息を飲んだ。ピンクのフォンダン、ホイップクリームとレース細工のキャラメルで飾られた、砂糖がけの芸術作品。スポンジとジャムと甘い焼き菓子で作られた、テクマトロジーの塔のレプリカだった。ジンクスは手を伸ばし、パンチボウルからレードルを手に取ると、スポンジにトンネルを掘った。くり抜いた部分を床にぶちまけ、レードルをきれいに舐めとると、テーブルの上に放り投げた。何人かの招待客が怪訝そうに自分を見ており、ジンクスは歯をむき出しにして、サイコーに危険な笑みを返した。連中はあたしがイカレてると思ってるかもね。でもそれ、合ってるかも。

ジンクスは肩をすくめた。ま、どーでもいいっしょ。

胸元に手を突っこみ、パックンチョッパー!を四個取り出す。三個をケーキに開けたトンネルの奥に詰め込み、最後の一個をパンチボウルに投げ込んだ。

ジンクスはテーブルの長辺に沿って歩いていき、さらに二個のパックンチョッパー!を取り出して、料理の中に紛れ込ませた。一個は銅のスープ容器に沈み込み、もう一個は子豚の丸焼きがくわえていたリンゴと置き換えられた。胸元の「詰め物」がなくなって、ドレスはかなりダブダブになっていた。そしてドレスの脇のジッパーを下げようとした時、あの監視官だろうと目星をつけていたハンサムが、招待客をかき分けながら一直線に彼女に向かって来るのに気づいた。

「そろそろかなー?」さらに四人、三人は女で一人は男、それぞれめかし込んだ監視官たちが自分に向かって来ていた。「おーっと、お友達も連れてきたんだ!」

ジンクスは背中に手をやり、細いウェストを締め付けているペチコートの結び目を解いた。コルセットが外れるのと一緒にドレスの下半分がふわりと床に落ち、周囲の男女は驚いて息を飲んだ。

ピンクのレギンスに弾薬ベルトで締めたショートパンツ、そして上にはベストという出で立ちを明かしたジンクスは、帽子を投げ捨てて髪を解き放った。股下に手を伸ばすと、ドレスの下に隠し持っていたフィッシュボーンをひっつかみ、肩に担ぎ上げた。

「みっなさーん!」大声で呼びかけ、ビュッフェテーブルに飛び乗って太腿のホルスターからシビレーザーを抜いた。「おなか空いてるぅ~?」

ジンクスはかかとを支点にスピンして、丸焼きの子豚が口にくわえたパックンチョッパー!目がけて炸裂するエネルギー弾を撃ち込んだ。

「ここの料理は、死ぬほどう・ま・い・ぞ~!」

パックンチョッパー!は爆発し、近くの招待客はアツアツの肉と脂のリボンを頭からかぶった。さらに爆発の連鎖は続く。スープ鍋が空中に打ち上げられ、熱いビーフスープを招待客に降り注がせた。続いてパンチボウルが吹っ飛び、そして爆発のトリを飾るのは、あのウェディングケーキだった。

ケーキに埋められた三発のパックンチョッパー!は同時に爆発し、そびえ立つ菓子の巨塔はロケットのように天に向かって飛んだ。そして、もう少しでステンドグラスの天井に到達するというところで、弧を描いて床めがけて急降下した。墜落の衝撃で巨大ケーキが爆裂し、フォンダンの破片が四散する中を招待客たちは走り回った。悲鳴を上げて爆発から逃げまどっては、べとべとのクリームやシュワシュワいうパンチに足を滑らせて次々と転倒する。

「あのさぁ、あんたたち」顔にかかった青い髪の房をフッと吹いて除けて、ジンクスは言った。「叫んだって、な~んの役にも立たないよ?」

メチャクチャに壊れたビュッフェテーブルから軽やかに飛び降りたジンクスは、一番近い窓にフィッシュボーンのロケット弾を撃ち込んだ。彼女を狙ってハンドクロスボウから発射された鉄の太矢が次々と壁に突き刺さるが、ジンクスは高笑いしながら吹っ飛ばした窓枠から身を投げて、庭に着地した。転がるようにして立ち上がりそのまま駆け出そうとしたが、急停止する。脱出経路は事前にだいたい決めていたが、ふとサンドヴィク邸の正門の方を見ると、そこには背の高いピカピカの「ディスクランナー」――盗んだらめっちゃ面白くなりそうなリング型の乗り物が停められていた。

「あー、こりゃーやるっきゃないよねぇ……」

フィッシュボーンを背中に背負い、茫然とするサンドヴィク家の従僕たちを押しのけて進むとそのディスクランナーに乗り込み、職人仕上げの革製サドルにまたがった。

「で、どうすればコイツ走るわけ?」目の前のコントロールパネルにズラリと並んだ象牙のノブ、縁が真鍮仕上げのダイヤル、宝石のようなボタンを眺めながら、ジンクスは言った。

「とにかく色々試してみよっかぁ~!」

ジンクスは手近なレバーを引き、目に付いた一番大きくて赤いボタンを押した。彼女の下でマシンが息づき始め、甲高い稼働音と出力上昇のうなりを響かせてスプールアップを始めた。幅広のリングの外周に沿って青いライトが回転し始めたその時、屋敷の正門が開け放たれた。険しい声がジンクスに「待てー!」と叫ぶ。アッハ、それ本気で言ってんの?ウケる!スタビライザーの出っ張りがピカピカのフレームの中に格納されると同時に、ディスクランナーは彼女の歓声を乗せてスーパーメガデスロケットみたいにすっ飛んで行った。

「じゃあね~!」ジンクスは肩越しに叫んだ。「サイコーなパーティーだったよ!」